「HERMES」(エルメス)を代表する商品と聞かれれば、誰もが「ケリーバッグ」というだろう。全工程をひとりの職人が手作りし、仕上げまでに60時間をかけるというから、生産量はわずか。好みの色、サイズを手に入れようと思ったら、2年待ち、3年待ちなどというのもザラで、値段だってそれにふさわしいものになって当然だ。バッグのデザインの基本になっだのは、高級馬具商だったエルメスらしく、鞍につける狩猟用バッグをかたどったものというが、蓋を押さえるベルト、留め金具、付属の錠前とその鍵カバーなど、細部にいたるまで女性のおしゃれに気くばりされた究極の作品となっている。この定番バッグが「ケリーバッグ」とよばれるようになったのは、女優からモナコのレーニエ大公の妃となったグレース・ケリーが愛用していたから、というのはよく知られるところ。しかし、実際のところは、彼女にまつわる、たったひとつのエピソードが、このバッグの名前を決めたのだった。1956年のこと。たまたま妊娠中だったグレース妃は、いまでいえばパパラッチのおおぜいのカメラマンに囲まれたとき、持っていたバッグでとっさにおなかの部分を隠した。かなり大きめのサイズだから、おなかは十分に隠れたのだが、そのかわりエルメスのバッグが大写しになった。この一枚の写真から、エルメスのバッグの存在が世界中にひろめられ、以後、今日までケリーバッグの名で親しまれることになったのである。